「2013年」この一年、ある時は新聞記事で、また雑誌の評論で、そして送られてくる案内パンフレットで、思い立った時ふらりと見てきた映画。
それをこの正月にとりとめもないものですが、まとめてみました。
「カミハテ商店」 邦画 1月 京都シネマ
山本起也監督 高橋恵子主演 寺島 進 あがた森魚 他
山陰の小さな港町上終(かみはて)そこに小さな商店を営む初老の孤独な女性千代(高橋恵子)その商店のそばの断崖絶壁は自殺の名所として知られ、そこを訪れる死を望む人は必ずといって最後にその商店に立ち寄り、千代が焼いたパンを求めていく。
翻意を促すでもなく、ただ黙ってその死を見詰め、生とはなにか、死とはなにか、とを問題提起している作品でした。
「ソハの地下水道」 ポーランド、ドイツ、カナダ合作 1月 京都シネマ
監督 アニエスカ・ホランド 出演 ロベルト・ヴィエツキー ヴィッチ 他
ナチス支配下のポーランド。下水道修理業者のソハは副業として空巣を働く小悪人で、ある日、下水道にナチスゲットーから逃亡し、隠れているユダヤ人の集団を見つける。
ナチスに密告する前に、ユダヤ人が持っている金を巻上げようと企み、そのまま下水道に匿うことにする。
何度かナチスに発見されそうになるが、下水道の隅々まで知尽しているソハに助けられる。彼らと接している内に徐々にソハは人間として目覚めていき、生死を彼らと共にするようになる。
そしてユダヤ人解放の日が訪れ、共に喜びを分ち合う、人間讃歌の映画でした。
「レ・ミゼラブル」 イギリス映画 1月 TOHOシネマズ二条
監督トム・フーバー 出演ヒュー・ジャックマン アン・ハサウェイ 他
1985年初演以来、ロンドンで今なおロングランを続けミュージカルでお馴染のレ・ミゼラブル。
その舞台そのまま映画化した、アカデミー賞3部門受賞の作品です。
ヴィクトル・ユゴーの不朽の名作。格差と貧困に喘ぐ19世紀のフランス社会を舞台にくり広げられるジャン・バルジャンを中心とした自由への解放の物語です。
「プンサンケ」 韓国映画 1月 京都シネマ
監督 チョン・ジェホン 出演 ユン・ゲサン キム・ジョンス 他
南北に分断された朝鮮半島。その38度線を越えて韓国と北朝鮮を密かに命を賭して往来する何でも運んでくるという運び屋のプンサンケ。
両国の秘密情報の争いの渦に巻込まれていく、過酷な運命を描いた作品でした。
「声をかくす人」 アメリカ映画 2月 京都シネマ
監督 ロバート・レッドフォード 出演 ジェームス・マカヴォイ ロビン・ライト 他
リンカーン大統領暗殺事件に関与して、女性として始めて死刑となった実在したメアリー・サラットを描いた作品です。
犯行グループへのアジト提供の罪に問われ、死刑を求刑されても頑として無実を訴え続けながらも絞首刑となった彼女。その弁護を引受けた弁護士フレデリック・エイキンとの絆を絡めて、彼女が何を最後まで守ろうとしたのかを問い掛けています。
「東ベルリンから来た女」 ドイツ映画 2月 京都シネマ
監督 クリスティアン・ペッツォルト 出演 ニーナ・ホス ロナルト・ツェアフェルト 他
ベルリンの壁崩壊の9年前、1980年夏、旧東ドイツの田舎町の病院に、西側の移住を申請するが拒否され、大都会から左遷され、秘密警察に監視されながら女医が赴任する。
彼女には西ベルリンに暮す恋人が存在し、彼の手引きで西側に脱出を図り、その時が刻々と迫ってくる。
赴任先の同僚医師の優しさと、医師としての使命感に心打たれ心が揺れ動く。
西側への自由への憧れと、医師として自分の使命感との選択を迫られる。
最後に彼女がとった行動は観る者の心に感動を与えてくれる映画でした。
「ひまわり」邦画 2月 教文センター
監督 及川善弘 出演 長塚京三 須賀健太 能年玲奈 福田紗紀 他
沖縄の基地問題。本当は我々国民一人一人が真剣にどうあるべきかを考えなければいけない問題でしょうが、他人事のように目を逸らしているのが現実です。
1959年、うるま市に起きたジェット戦闘機墜落事故、多くの死傷者をだし大惨事となりました。
この問題を真正面から捉えた沖縄の大学生たち、基地の存続によって生活の成立つ人を含めて、私達に沖縄の基地はどうあるべきかを投げ掛けた映画でした。
「屋根裏部屋のマリアたち」 フランス映画 3月 京都シネマ
監督 フィリップ・ル・ゲイ 出演 ファブリス・ルキーニ サンドリーヌ・キベルラン 他
パリに暮す、資産家で裕福な中年男性ジャン。一方、同じ建物のその6階の屋根裏部屋に住むメイドたち。彼女たちは軍事政権が支配するスペインから逃れ、メイドとしてパリで働いています。
新しくやって来た、その内の一人、マリアをメイドとして雇ったジャン、勤勉で有能なマリアを気に入り、それがきっかけで仲間の彼女たちと親しくなる、そして彼女たちと接する内に、本当の幸せとはなにかと思い始める。
人間の幸せとはなんなのかと観る者に問い掛け、考えさせる映画でした。
「千年の愉楽」 邦画 4月 京都シネマ
監督 若松孝二 出演 寺島しのぶ 高良健吾 高岡蒼祐 他
急逝した若松孝二監督追悼映画会として上映された映画です。
中上建次さんの原作で、三重県尾鷲市須賀利そこを舞台に色事師ややくざなど、土着の因習の中に蠢く若者の生態を描いて、そこに生(性)と死との問題を投げ掛けている映画と思いました。
「シャドーダンサー」イギリス、アイルランド共同制作 4月 京都シネマ
監督 ジェームス・マーシュ 出演 アンドレア・ライズブロー クライブ・オーウェン 他
1993年一人息子を育てる、シングルマザーのスコットは北アイルランド共和国(IRA)のメンバーとして活躍していたが、ロンドン爆破事件の容疑者としてイギリス情報局に逮捕され、投獄を免れる替わりにスパイとして働く事を強要される。 シャドーダンサーというコードネームで呼ばれる彼女は、幼い息子を育てる為、やむなくその任につく。
アイルランド、イギリス両国の対立に翻弄される人々の悲劇を描き、愛する息子を守る為に、スパイとして生きる道を選んだ女性の悲しい物語でした。
「二人日和」 邦画 6月 シルクホール
監督 野村恵一 出演 藤村志保 栗塚 旭 賀集利樹 他
難病に冒され余命幾ばくもない妻と、神祇装束の店を営む職人気質の夫との、その日々の暮らしを通して、夫婦の何気ない暖かい思いやりと、固い絆を優しい眼差しで描いた物語です。
京都本来の風景の中に、主演のお二人を始め、京都在住の縁の人々が演じる、本当の京都人と、市井の暮しが全編に溢れる秀逸の映画でした。
「キング・オブ・マンハッタン」 アメリカ映画 6月 京都シネマ
監督 ニコラス・ジャレッキー 出演 リチャード・ギア スーザン・サランドン 他
ニューヨークの大物投資家ロバート・ミラーは、一代で莫大な富と名声を得て、幸せな家庭を築いていたように見えたが、ある投資の失敗から巨額の損失を抱え、愛人の死亡問題など、次々とトラブルに巻込まれて、自滅への道を辿っていく。
結末はなんだか気分はすっきりしないままに終わってしまったという印象を持ったと、記憶している映画でした。
「偽りなき者」デンマーク映画 6月 京都シネマ
監督 トマス・ヴィンターベア 出演 マッツ・ミケルセン 他
デンマークの片田舎の保育園の教師ルーカス。幼い子供の作り話から、変質者の烙印を押されたルーカスは村八分の扱いを受け、孤立無援の中で自らの潔白を証明しようとして、人間の尊厳と誇りを懸けて苦闘する姿を描いていました。
僕には最後は何か釈然としないままに、嫌な気分が残った映画となりました。
「25年目の弦楽四重奏」 アメリカ映画 7月 京都シネマ
監督 ヤーロン・ジルバーマン 出演 フィリップ・シーモア・ホフマン クリストファ・ウォケン 他
結成して25年を迎えようとしていた弦楽四重奏団。しかし常にまとめ役だったチェリストがパーキンソン病を発病し引退を伝える。
それをきっかけに、嫉妬やライバル意識、家庭の不和など、いろいろな問題が発生し、完璧だったカルテットに不協和音が鳴り響き、解散の危機に直面するが、最後は新たなメンバーを加えて再出発する。
人間とは色んな問題と直面しながらも、お互いに妥協して生きていかなければ一人では生きていけない、どう生きるかを問われている物語でした。
「ニューヨーク恋人たちの2日間」フランス、ドイツ、ベルギー合作映画 8月 京都シネマ
監督 ジュリー・デルビ 主演 ジュリー・デルビ クリス・ロック 他
ニューヨークで新しい恋人と暮す彼女のもとに、フランスから彼女の家族がやって来て巻き起こる、大騒動の2日間を描いたコメディー映画です。
新聞評を見て足を運びましたが、小粋な洒落たコメディーには感覚的についていけないのが残念でした。
「大統領の料理人」 フランス映画 9月 京都シネマ
監督 クリスチャン・ヴァンサン 出演 カトリーヌ・フロ ジャン・ドルメソン 他
フランス大統領、ミッテランに仕えた、史上唯一の女性料理人ダニエル・デルプエシュの実話をもとに、女性シェフの奮闘を描いた物語でした。
シェフに就任した彼女は、規律に縛れた官邸の厨房で孤立しながらも、美味しいさを追求し、大統領に提供していく、そしてその料理は大統領の心を捉えていく。
心のこもった料理を通じて、大統領と料理人が心を通わせ、人間的な温もりを感じさせ、感動を与えてくれる映画でした。
「蠢動-しゅんどう-」 邦画 10月 MOVIX京都
監督 三上康雄 出演 平 岳大 若林 豪 さとう珠緒 栗塚 旭 他
亨保年間の山陰因幡藩を舞台に、幕府の密偵として乗り込んできた剣術指南役。
それを知り、その難局を乗切ろうとする城代家老。
それぞれの立場から、正義、大義、武士道が交錯する中で藩命と友情の葛藤に苦しみながら、剣友を処断しなければならない武士の姿を描いていました。
武家社会の不条理をあぶり出した、久し振に見る骨太の時代劇映画でした。
「ハンナ・アーレント」 ドイツ、ルクセンブルグ、フランス合作 12月 京都シネマ
監督 マルガレーテ・フォン・トロッタ 出演 バルバラ・スコバ アクセル・ミルベルク 他
ドイツに生まれ、ナチス政権の迫害を逃れてアメリカに亡命した、ユダヤ人政治哲学者ハンナ・アーレントの物語です。
ナチス戦犯アイヒマンの裁判の傍聴記事を執筆発表し、世界中から激しいバッシングを浴び、特にユダヤ人社会の多くの友人が彼女の元から去っていく。
それでも、生涯自説を曲げず、信念を貫き通し、強く生きていく姿を描いています。
僕たちが経験した大東亜戦争、全体主義の中で抵抗し、信念を持って生きていく事の難しさ、人間の持つ弱さを改めて思い返させた映画でした。
思い返し、書いてみて、特に印象に残り素晴らしかったと思える映画は、まず「ソハの地下水道」です。次に「蠢動」そして「ハンナ・アーレント」でした。
今年はどんな映画に出会えるか楽しみにしています。