「2014年」昨年もまた、メディアが伝える映画評で、興味を持った作品を幾つか鑑賞してきました。後半は時間の余裕がなく、本数も少なくなりました、ちょっこと感想です。
「遙かなる勝利へ」 ロシア映画 1月 京都シネマ
監督 ニキータ・ミハルコフ 出演者 オレグ・メンシコフ ヴィクトリア・トルストガノフ 他
戦争というものは勝者敗者に関わらず、その渦中に巻込まれた人間の人生を翻弄し、運命を変えていくものです。
、この映画は政治犯の汚名をきせられ、第二次世界大戦のソ独戦争の最前線に送られた、ロシア革命の英雄だったコトフの姿をその家族の生き様と共に描いています。
政治家(スターリン)の思惑一つで政治犯から将軍へ、その流れの中、ドイツ軍の堅固な要塞との戦いの中で、消息不明だった娘のナージャ(従軍看護婦)と喜びの再会を果たし、親子の絆を確りと確認し喜びもつかの間、衝撃的な結末となり、観るものの心を揺さぶります。
「ある精肉店のはなし」邦画 2月 京都シネマ
監督 纐纈あや(はなぶさあや)
「祝の島」(ほうりのしま)で監督として注目された、纐纈監督の二作目のドキュメンタリー映画です。
貝塚市で、家族で支えあい、代々受け継いできた精肉店の日常を、温かい眼差しで淡々としたタッチで活写しています。
自分たちで育てた牛を、家族の緻密な連携による屠畜場での解体、そして食肉として店頭で販売するという過程。親の代からその仕事に携わってきた思いを、各人が静かに語っているのが印象的で、「命を食べて我々の命は生きている」という言葉は重く、我々人間は、食としてあらゆる動植物への感謝を常に持ち続けなければならないとの思いを深くしました。
「ウルフ・オブ・ウォールストリート」米国 2月 TOHOシネマズ
監督 マーティン・スコセッシ 出演者 レオナルド・ディカプリオ ジョナ・ヒル 他
ウォール街のウルフと呼ばれた実在の株式ブローカー、ジョーダン・ベルフォートの回想録を映画化したドラマです。
1980年代から1990年代、なんの経験も人脈もないまま、22歳でウォール街の投資銀行へ入行、そこで巧みな話術と発想で瞬く間に実績を上げていき、26歳で証券会社を設立して独立。約49億円の年収を稼ぐようになる、金遣いも荒く、セックスとクスリに溺れながら世間の話題を集めて、その後、証券詐欺の容疑で逮捕され転落し、破滅していく様を描いています。
ウォール街を扱った映画をいろいろ観ていますが、この映画はアメリカンドリームに潜む裏の世界を見せられ、金に群がり、金に躍らされ、金に翻弄される、狂気の世界を描いていました。
「大統領の執事の涙」 米国 2月 京都MOBIX
監督 リー・ダニエルズ 出演者 フォレスト・ウィテカー オプラ・ウィンフリー 他
ホワイトハウスに実在した、黒人執事の人生をモデルにした映画です。
セシルは南部の奴隷から懸命に働き、ホテルのボーイからスカウトされて、大統領の執事となります。 その間、七人の大統領に仕え、アメリカ現代史の表裏を垣間見ながら、妻と二人の男の子の家庭を守り働き続けます。
黒人差別の激しい時代に、白人の従者である父に反発し、公民権運動に身を挺する長男、ベトナム戦争に参加して戦死する次男、酒に溺れる妻、家庭を巻込みながらの波乱の人生を描いています。
最後はオバマ大統領の誕生を見て、家族との平穏な人生を味わって終わります。
アメリカの暗部である、人種差別の問題を鋭く突いて、見応えのある映画でした。
「ワレサ 連帯の男」 5月 京都シネマ
監督 アンジェイ・ワイダ 出演者 ロベルト・ビェンツ キェビチ アグニェシュカ・グロホウスカ 他
ノーベル平和賞を受賞した、レフ・ワレサ元大統領の生き様を、家族と共に絡めて描いた作品です。
ポーランドの造船所の一電気工だったワレサが、1970年の物価高騰に対する抗議行動から、徐々に中心的存在となり、連帯の委員長として、東欧の民主化の英雄的存在となっていく過程が描かれています。
家族との日常、特に奥さんとの固い絆と、彼の人間的な面も丁寧に描かれています。
いつの時代であっても、どこの国でも、権力者に対抗していくには、本人はもとより周囲を取巻く人々の余程の覚悟がなければその意思を貫いていくことはできません。
ワレサの人生を、少し美化しすぎたきらいはあるように思いますが、大統領にまで昇り詰めた彼の偉大さが伝わる映画でした。
「朽ちた手押し車」邦画 6月 京都シネマ
監督 島宏 出演者 三国連太郎 田村高廣 初井言栄 長山藍子 他
昨年亡くなられた三国連太郎の唯一のお蔵入りだった主演映画が30年ぶりに公開された映画です。
新潟県の漁村一家の物語で、そこには認知症で徘徊する元漁師と、難病の末期患者の老夫婦を抱えた家族の苦悩を描きながら、現在大きな社会問題になっている、高齢化社会や安楽死といった問題を、その家族を巻込んで鋭く表現して我々に真正面から問い掛けている素晴らしい作品です。
三国連太郎が、80歳の痴呆症の老人をものの見事に演じ、初井言栄など芸達者なキャストが素晴らしい演技を見せています。
30年前に、この問題を正面から取り上げて世に問い、この映画制作に携わった人々の慧眼に驚きを禁じ得ません。
「太秦ライムライト」邦画 6月 TOHOシネマズ
監督 落合賢 出演者 福本清三 山本千尋 本田博太郎 萬田久子 他
時代劇の黄金時代を支えてきた大部屋の演技者たち、その中でも、日本一の名斬られ役として、その名を知られる福本清三さんをモデルに制作された映画で、主演はモデル本人の福本清三さんです。
時代劇が、映画やテレビから減少し衰退していく中で、時代劇を愛する人たちの現在の姿を、撮影所の内幕も絡めて赤裸々に描き出している人間ドラマです。
「老兵は死なずただ消え行くのみ」そこに悲哀と希望がないまぜになって、京都の映画のメッカ太秦の、時代劇を愛する誇り高き職人集団と、本物の時代劇再生を心から願わずにはいられません。
「春を背負って」邦画 6月 TOHOシネマズ
監督 木村大作 出演者 松山ケンイチ 蒼井優 豊川悦司 檀ふみ 他
立山連峰、大汝山の山小屋を舞台に、繰り広げられる山岳映画です。
都会に勤める息子が、山小屋を経営する父の急死によって、周りの多くの善意の人の協力によって、山小屋の経営を引継ぎ、成長していく姿を描いています。
監督はカメラマン出身で、映像には素晴らしいものがありますが、それ以上のものでなく、シナリオは、通俗的なホームドラマに終始して、最後に若い二人が踊るシーンは「アルプスの少女ハイジ」の世界で、全くの期待外れでした。
映画 「中村勘三郎」 邦画 8月 京都シネマ
監督 松木創 出演 中村勘三郎 他
2012年12月5日、急性呼吸窮迫症候群のため57歳で急逝した歌舞伎俳優、18代目中村勘三郎の生き様を描いたドキュメンタリー映画です。
テレビ番組などで放送された、長期にわたる密着取材の映像をまとめたもので、平成中村座のニューヨーク公演に始まり、勘三郎襲名の全国行脚などを織り交ぜ倒れるまで走り続けた、希代の歌舞伎役者の情熱を傾けた舞台上の姿、そしてまた楽屋の準備や稽古姿に、数々の名言、示唆を含む言葉など、家庭でのプライベートな素顔など、余すところなく描いています。
勘三郎の人気の原点が何処にあったのか知る事のできるドキュメンタリーでした。
映画 「パガニーニ」 ドイツ映画 8月 京都シネマ
監督 バーナード・ローズ 出演 デビッド・ギャレット ジャレッド・ハリス 他
19世紀イタリアの超絶技巧を駆使した、天才ヴァイオリニスト、ニコロ・パガニーニ。この悪魔のヴァイオリニストと呼ばれたパガニーニの女、酒、ギャンブルにまみれた破天荒な人生を描いた映画です。
1830年敏腕マネージャ、ウルバーニの手腕により、富と名声を欲しいままにし、自堕落な生活を送っていたパガニーニは、ロンドン公演で指揮者ワトソンの娘、シャーロットと出会いその美しい歌声と共に、真実の恋に目覚めるというお話です。
パガニーニ役を欧米で絶大な人気を誇るドイツ人ヴァイオリニスト、デビッド・ギャレットが演じて、スクリーンで超絶技巧を見せ、名曲を聴かせてくれます。
映画 「白ばらの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々」 ドイツ映画 12月 京都シネマ
監督 マルク・ローテムント 出演者 ユリア・イェンチ アレクサンダー・ヘルト 他
2005年公開の映画ですが、リバイバル上映されたの機会に鑑賞してきました。
第2次世界大戦中のナチスへの抵抗運動を、史実に基づいて描いた人間ドラマです。
ミュンヘン大学の女子学生、ゾフィー・ショルは兄のハンス、と共に反ナチス抵抗組織「白バラ」のメンバーとして大学構内で反戦ビラをまき、兄と共にゲシュタポに逮捕されます。
最初は組織と無関係と主張しますが、執拗な追及の末、つぎつぎと証拠品が押収され、友人クリストフも逮捕され、ついに彼女は覚悟を決め、厳しい尋問に屈せず、ナチスを糾弾し、自らの信念と良心に従って行動していきます。
その結果、国家反逆罪によりわずか5日間の尋問の末、兄、友人と共に21歳という若さで処刑されます。
この映画は第55回ベルリン国際映画祭で、最優秀監督賞と最優秀女優賞を受賞しました。
自分の信念に基づき、国家権力へ抵抗することは誰もが成し得ることではないでしょう。時の流れの中に身を任せていることの方がが無難だからです。日本が無謀な太平洋戦争に突き進んだころ、身を賭して抵抗した人は少数だったことを改めて思い浮かべました。