春爛漫の京都の街で「PARASOPHIA・京都現代芸術祭2015」が開催されています。京都市美術館をメーン会場に、京都文化博物館や京都芸術センターなどを舞台に国際的に活躍する新進気鋭の作家が作品を発表しています。現代芸術という作品を鑑賞するだけの素養や思考力、洞察力などは持ち合せてはいませんが、興味をそそられて覗いてみました。
「PARASOPHIA」の案内ポスターです。まず主会場の京都市美術館を訪れました。
美術館の前には大きなトレーラーが止まっています。これは劇作家の「やなぎみわ 」さんが使用する「移動舞台車 」で中上健次の小説「日輪の翼」上演するということです。会期終了後は全国に移動、旅公演を続けるそうです。
「京都市美術館正面」です。今回の芸術祭は1,2階の展示室や地下室を含め全館作品発表の展示室となっています。
正面玄関にすでに倒錯したオブジェが入館する人たちを迎えます。
これは東出口に会期中、臨時に設置されたカフェの入口です。
「 蔡 国強」 1957年、中国福建省生まれ、ニューヨーク拠点に活動しています。北京オリンピックの開会式の花火の演出で知られ、奇抜なプロジェクトで世界的に知られています。正面玄関から入った中央の広い吹抜けに設置されたオブジェです。六角形七段の塔、長安の大雁塔を現しているとのことですが、日常の種々雑多な物が吊下げられ、人形が今にも飛び降りそうな姿を見せています。
「呉 玉禄」 農民発明家です。この塔の周りにはユーモラスなロボットが塗装をする動きを見ているだけでも楽しいです。この空間はフリー(無料)で誰でも入場できるので、子供から大人まで楽しいめる空間としてお薦めしたいです。
人間がぐるぐると振り回されています。誰が振り回しているのでしょうか。
「ジャン・リュック・ヴィルムート」 1952年 フランス生まれ パリ在住です。公共空間や日常的な場所での作品制作を手掛けています。まあ見たところ落書きの集大成と見間違うところですが、広島や福島の文字が多く見られ、中央の写真パネルは、広島原爆投下後の消息の伝言板などを集めています。それらがバランスを保っているところが不思議です。
「ウイリアム・ケントリッジ」 1955年南アフリカ、ヨハネスブルグ生まれ 同市で活動しています。「動くドローイング」とも呼ばれるデッサンをコマ撮りした手描きアニメーション・フィルムで世界的に知られた美術家です。
「フランツ・ヘフナー 1970年 ドイツ生まれ 「ハリー・ザックス」1974年 ドイツ生まれ、両氏ともベルリンを拠点に活動しています。美術館の南入口に{Museum Casino}と題する展示を行っています。過去の展示に使用された備品を再利用し、美術館に残っている忘れ物の傘を利用しての展示です。彼らはその場にある材料を利用して、部外者として作品を構築していくという手法を用いています。私が見るところ、下部を人間の住む建物群と見るなら、そこに天上から一斉に槍が突き刺さるような自然の猛威の重苦しさを感じますが、勝手にいろいろ理屈をこねて、考えられるところが面白いところです。
「美術館の誕生」 南地下室です。 スライドショーで、「大礼記念京都美術館の誕生。 接収期から京都市美術館の誕生まで」など見せてくれます。常日頃、非公開の美術館の地下室に初めて潜入できて興味深く眺めました。
柱などにも昔の面影が残っているようです。
今も残る敗戦後の進駐軍による接収期の「靴磨き」の扉の看板です。美術館の誕生から敗戦後の変革期を経て、今の美術館が存在する事を改めて認識しました。
「南地下室」から1階への回り階段です。美術館にふさわしい重厚で美意識に満たされた空間です。
「アン・リスレゴー」 1962年 ノルウエートンスベルグ生まれ、コペンハーゲンとニューヨークで活動しています。CGアニメーションのフクロウが台詞を発し、フクロウの滑稽な動きが目を惹きつけます。
「ブラント・ジュンソー」1959年 アメリカ・ニューヨーク州生まれ。ベルリンとニューヨークを拠点に活動しています。巨大なガラスケースの中に、男女それぞれ別に納められた石膏による人体は、限られた空間の中で、のけ反り自由を求めて苦しんでいるように見えます。
「髙嶺 格」 1968年 鹿児島県生まれ 秋田を拠点に活動しています。北地下室に設置された床面はあたかも地表を表現していると思はせ、それらが照明により色彩豊かに表情が変わり、最後に漆黒の闇の中、天井から吊下げた小さな円盤が光を放ちながら周り続けるという、音響効果と相まって不思議な世界を表現していきます。
「グシュタヴォ・シュベリジョン」 1978年 ブラジル・リオデジャネイロ生まれ、同市を拠点に活動しています。
「アリン・ルンジャーン」 1975年 タイ・バンコク生まれ。同市を拠点に活動しています。この映像の前に立つと、両手で足を引張られるような錯覚に起こされます。タイと日本との交易史を、この手がページをめくって映像で解説しています。この映像と次の空間との関連性はどうなのか、奥へ入ると[Golden Teardrop]が展示されています。
[Golden Teardrop]です。2013年にヴェネツィア・ビエンナーレに出品された、真鍮の精微なインスタレーション(従来の彫刻や絵画のというジャンルに組み込まれない作品やその環境)を進化させて展示しています。微妙で視覚を惑わすような陰影を持つ作品です。
「アナ・トーフ」 1963年 ベルギー・モルツェル生まれ。ブリュセルを拠点に活動しています。展示されている「ファミリー・ブロット」と呼ばれる作品は彼女が選んだ先人たちの歴史を50点の版画によって展示しているといわれていますが、作品を理解できない僕には、展示室の上部採光窓からの光線があまりに美しく取上げてみました。
笠原恵実子 1963年 東京生まれ、藤沢市を拠点に活動しています。この作品は第二次世界大戦中に製造された、陶製手榴弾の遺物から発想を得て作品化したものです。私には個性の違う人間が囲まれた空間の中に、無理やり押込められて呻吟している様に見えましたが。
「倉智敬子+高橋悟」 倉智敬子 1957年大阪生まれ 高橋悟 1958年京都生まれです。漂白された法廷と、監獄の白い構造体を置き、鑑賞者は、法廷から監獄へと周りながら異様な体験を強いられます。監獄内では鏡に映る自分の姿を見る事になり、閉ざされた世界の中に自分の真の姿を見詰めよということなのでしょうか。
「石橋義正」1968年 京都生まれ 京都を中心に活動しています。美術、音楽、映像が融合する作品制作やパフォーマンスを行っています。鑑賞者は展示空間を移動しながら女性の人生を通じて、悪夢、幸福、身体、欲望といった関係性を考えるという空間を提供しています。狭くて暗い通路の向こうに自由に飛び立とうとする女性の姿、その女性の前を通り、暗幕の向こうに入っていきます。
入ると、ドキッとするような緊張感に包まれます。手前の女性とスクリーンに映し出される光景、赤裸々に自分を開放できるトイレの空間、鑑賞者は自分で筋書きを作りながら次のブースへと進みます。
水中から飛翔する女性、両手を大きく広げて解放感を味わっているのでしょうか。物語を鑑賞者に委ねる仕組みのようです。
「ナイリー・バグラミアン」 1971年イラン・エスファハーン生まれ ベルリンを拠点に活動しています。難解そのもので、さすがにこの辺りまでくると疲れがどっと出てきます。
「ルイーズ・ローラ」 1947年アメリカニューヨーク州生まれ、ニューヨークを拠点に活動しています。河原町通のBAL建築現場の板囲いに展示されている、同じ手法のトレース作品です。
全館を巡り、2階の展示場出口から、正面玄関を見ると美術館としての風格が感じられます。その展示場の殆どの各ブースの空間を、独り占めにして贅沢で優雅な至福の時を過す事ができ大満足の「パラ・ソフィア」でした。